【後味の悪い話】私の犯した殺人



214 名前:告白 ◆LDJ.nSAcoo 投稿日:03/06/01 03:12

ある小説家の告白です。

N君とは田舎の中学校で同級生だった。
彼も私も東京に出て別々の高等学校へ入学したが、
大学へ入ってみると、 また同じフランス文学科で顔を会わせた。
なるほどかのライバル意識はあっただろう。
充分に親密になっていい間がらでありながら それほど親しくなれなかったのは、
やはりおたがいなんとなく馬が合わず、
かすかに毛嫌いしている部分があったからだろう。








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それでもなにしろ家族ぐるみの知り合いになっていたから、
クリスマスの頃になると私はふと思い出し、 ケーキをたずさえて何度か、
おそらく二、三年続けて彼の家を訪ねたりしていた。
私は大学在学中に肺結核に罹り二年間休学した。
当然彼のほうが二年先に卒業する。




ある年の十二月のなかば、大学の廊下でN君と出会った。
四年生のN君は来春の就職がすでに決まっていた。
「おめでとう」
と、私は言ったと思う。
「うん。しかし、卒論が書けなくて」
N君はなかなかの秀才だった。
大学の卒業論文なんかほんの形式だけではないか。
私は、
「卒論が書けないなんて馬鹿だ」
と、確かにこの通りの台詞を冗談めかしく、
しかしなにほどかの嘲笑を交えて言ったと思う。



N君が自殺したのはそれから二週間ほど後だった。
クリスマスの翌日だった。
家族がみんな暮れの買い出しに出かけたあと、
N君は睡眠薬を飲み、ガス栓を開き、顔に白布を載せて死んだ。

原因は

『卒論が書けなくて』であった。


N君は高校のときにもノイローゼに罹ったことがあった。
その頃は学校も違ったので接触も薄く、
病状がどれほど悪かったのかくわしくは知らない。
一時休学をして病院にまで入ったのだから、
そう軽い病状ではなかっただろう。

以上は今日までだれにも漏らしたことのない告白である。
大きな咎が私に合ったとは思わない。
だが、人はいつの日か、だれかを殺しているものだ。
もうあれから二十数年の年月が流れた。N君の命日がまたやってくる。

 あるエッセイ『私の犯した殺人』より抜粋。

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