【後味の悪い話】泥棒親子

878 名前:その1 :2009/02/03(火) 03:45:21
中東かインドかどっかそこらへんの昔話。『泥棒親子』。
ある王宮の街。貧しい夫婦がいて妻が妊娠したが、このままじゃとても暮らしが立たず
夫は盗賊になって一旗上げてやろうと、臨月までには帰る約束で旅に出る。
だが、出産後になっても夫は帰らず、妻は困窮の母子家庭で必死に息子を育てる。
少年も幼い頃から町の雑役仕事を手伝い、貧しいながらもそれなりに幸せにやってきた。
ただ一点、そこに父親がいないことを除いては。

ある程度少年が大きくなったところで、母親は盗賊になって稼いでくると出て行った夫のことを告げ、
「生きているなら、どうかお父さんを探し出してきて欲しい」と息子に懇願する。
少年は母親の必死の想いを酌んで旅立つが、感情的な母親と違って利発な少年は現実的で、
顔も知らない父親など見つけられる訳がない、と、最初から探す気はなかった。
その代わり、かつて父親が目指したように、今度は自分が一発稼ぎを当てて
手土産を持って母親の待つ家へ帰ろうと思っていた。

その夜、宿屋に泊まった少年は、粗末な麻袋を大事そうに持った旅の男と一緒になった。
金目の物に違いないと睨んだ少年は、上手く男に話しかけて警戒を解き、
男が寝入った隙に袋を奪って逃げる。案の定、中には金貨や宝石が入っていた。
しょっぱなからいきなりまとまった財物が手に入ってしまうとはラッキーだ、と喜んだ少年は
早速それを持って家に帰った。突然財宝を手にして帰って来た息子を見て母親は驚いたが、
二人で相談し、とにかくこれを郊外の誰にも見つからない場所に保管しておこう
という話になって、夜が明けきる前にと、麻袋を抱えて再び少年は出掛けて行った。




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880 名前:その2 :2009/02/03(火) 03:45:46
一方、家に一人残った母親の元に、早朝一人の訪問者があった。
それは数年来、音信不通だった夫だった。
「気負って家を出たものの、なかなか思うように稼ぎが貯まらず、帰るに帰れなかった。
やっとそれなりの財産を作れたと思ったのに、ここへ帰る途中
相部屋の小僧に騙されて全財産を盗まれてしまった。」夫はひどく気落ちしていたが、
「まあ、何という偶然! その財宝なら無事よ。今、息子が安全な場所へ隠しに行ったわ!」
という妻の言葉を聞いて、二人で抱き合って喜んだ。二人とも、とても幸せだった。
ただ一点、そこに息子がいないことを除いては。「もうすぐ帰ってくるわ。」
そうこうするうちに、財宝を隠し終えた息子も帰ってきた。
家の中に例の男がいるのを見たとき、少年は最初、男が復讐にやって来たのかと身構えたが、
母親の話を聞いて、今度は三人で喜んだ。
家族は、秘密の隠し場所から少しずつ財宝を持ち出して売っては、暮らしの足しにした。
以前よりだいぶ裕福で余裕のある暮らしぶりが出来るようになった。
家族三人とはいうものの、長らく面識のなかった父と息子にはこれといった共通の話題もなく、
唯一の団欒といえば、昔の城砦の名残で街に張り巡らされているという地下の抜け穴を通って
どうやって宮殿に盗みに入って鼻を明かすか、それぞれの計画を二人で知恵比べするくらいだった。
たいていいつも、父親よりも息子の方が優れたアイディアを浮かべて論破するので
父親は息子の成長ぶりに大いに満足していた。しかし、机上の計画を練っているうちに、
少年の案があまりにも出来が良くて、いつしか二人は、本当に自分たちの計画が通用するのか
実際に盗みを実行してみたいとの思いに駆られるようになっていた。

881 名前:その3 :2009/02/03(火) 03:46:24
危ない事はやめてと母親は心配して止めたが、大丈夫だよと男二人で宥めて
ある夜ついに決行することになった。父子二人は、事前の緻密な計画どおり
縦横無尽に張り巡らされた迷路のような地下の抜け穴を這って、城壁の中、宮殿の庭に辿り着いた。
ここで手はず通り、財宝を掻き集めてから落ち合う約束で二手に分かれた。
父親は、厨房の裏手から忍び込む。ふと、鍋に残された豪華な料理が目に留まる。
「畜生、俺たちが食うや食わずの時に、こんないい物食ってたのか。」
ちょっと味見のつもりで舐めてみたのが、予想以上に美味で、
すきっ腹の旅空で苦労してきた経験が長かった父親は、思わずガツガツと飯を掻っ込んだ。
「おっと、こんな事してる場合じゃない。」
我に返っていくつかの部屋から金銀財宝を集め、時間通りに息子と落ち合った。
「よし、帰るぞ。」まず息子が脚から穴にもぐり込み、父親が続いて頭を入れる。
が、ここで予想外に、料理でふくれた腹がつっかえて、穴の中に入れなくなってしまった。
息子の手助けも借りてなんとか引っ張り込もうとするが、いっこうに入らない。
このままじゃ埒があかないので一旦出て別の穴から帰ろうと思ったが、
引っ張りすぎたせいで穴にすっぽり腹が嵌ってしまい、今度は抜くことさえ出来なくなってしまった。
焦る親子。父親は、穴から下半身だけが地上に飛び出した間抜けな格好のまま、にっちもさっちもいかない。
早くしないと夜が明けてお城の人たちがやって来る。
「いいか、よく聞け。」運命を悟った父親は、息子に言った。
「俺はもうここから動けない。お前だけ逃げても、じき朝が来て俺が皆に見つかれば、
罪人の身内は一家揃って皆殺しだ。だから…今、その刀で俺の首を落として持ち去ってくれ!」
驚いた息子はそんな事できないと断ったが、母親の連座のことを言われて説き伏せられ、
夜が明けるすんでの所で父親の首を斬って抜け穴を逃走した。
自らの手にかけるその時はじめて、今まで実感のなかった親子の情が湧き上がってきて苛まれたが、
下手に手元を狂わせて苦痛を長引かせるよりはせめてもの情けと、思い切って一気に切断した。
抜け穴から城壁外の河べりに出ると、少年は父親の首と石ころを麻袋に詰め込んで
川の中央めがけて放り投げた。石を詰めた袋は、川底へと沈んで消えた。

882 名前:その4 :2009/02/03(火) 03:51:13
夜が明けると、宝飾品が荒らされ、庭の穴から首無し死体の脚が突き出ているのを発見して、
宮殿は大騒ぎになった。王様はカンカンに激怒し、何とかしてこの身元の判らない盗賊の仲間を
捕まえてやろうと躍起になった。そして、見せしめに死体を市中引き回しにすると街中にお触れを出した。
事情を知っている身内の者――とくに女――がその悲惨な遺体を見れば、動揺を隠せないと考えたからだ。
「いいですか、母さん。父さんの死体を見ても、絶対に不審な言動をとったりしないでください。
でないと、僕らのために命まで投げ出した父さんの気持ちが無駄になります。」
「おお、無理だよ。きっと私はいたたまれなくなって泣き叫んでしまう。」
「わかりました、母さん。じゃあ僕が何とかしましょう。」
やがて、この母子の家の門前にも死体の引き回しがやって来た。
町の人々は皆それぞれに、ズタボロになった首無し死体を見て顔をしかめ、目をそむけていた。
「やぁ、母さん、うちにもやって来たよ。ほら、あそこ。」
少年は家の前の木に登って王様の行列を指差し、ちょうど家の前を通過するところで
わざと足を滑らせ地面へ落ちて見せた。変わり果てた夫の死体を目にした母親は、その瞬間
魂も抜けるような甲高い悲鳴を上げ、息子にすがりついて狂ったように泣き喚きはじめた。
けれど王様の一行は、目の前で木から転落した息子を見て母親が取り乱しているのだろうと
何の疑問も持たずに通り過ぎて行った。

かくして、王様の自信満々の策にもかかわらず、結局犯人の身元は割れずじまいで事件は迷宮入りした。
母と子は、王宮から盗んできた財宝を遠地で売って大金を作り、
周囲の人々へは商売で成功したと話して、郊外の広い敷地に豪邸を構えた。
何年も過ぎ、少年は大人になって結婚し、子供もたくさんできた。
老いて孫たちに囲まれた母と、大富豪の息子夫婦らは、何不自由ない生活を送っていた。
それはまるで、はたから見ても誰もが羨むような、この世の極楽を享受するごとき幸せだった。
―――ただ一点、そこに父親がいないことを除いては…。

883 名前:本当にあった怖い名無し :2009/02/03(火) 03:52:37
ちょっと小金を稼いで裕福になったあたりでやめとけば
あのままずっと親子三人でほのぼのと暮らして行けたのに、
人間、チャンスがあると思えば、どうしても上を夢見てしまうんだなぁ…。
ていうか、まずもって、盗賊って職業が好意的に描かれていること自体
感覚的に今一ピンとこない…。
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