【後味の悪い話】「もう半分」

587 名前:本当にあった怖い名無し :2008/10/17(金) 01:05:26
後味の悪い古典落語
「もう半分」

お江戸の大川、永代橋のたもとに安い居酒屋があった。酒は一合十六文。
つまみは芋の煮物にタクアン、しょうが、ラッキョウ。こんなもの。
いつの頃からか、この店に棒手振りの老いた八百屋が常連として訪れるようになった。
骨が浮き出すほど瘠せて皺くちゃ、鼻が高くて歯は何本も残っていない。
この爺さんは、いつも変わった注文のしかたをした。
まず最初に5勺(一合の半分)頼み、それを飲み干すと
「もう半分」といって茶碗を突き出す。居酒屋はそこにもう5勺注いでやる。
爺さんが言うには、「このほうが、同じ一合でもたくさん飲んだ気分になる」とのこと。
酒屋の夫婦は気前よくその注文を聞いてやっていた。

さてある日のこと、いつものように爺さんは1合の酒を半分に分けて飲み、店を出て行った。
夫婦がもう店を閉めようとすると、やけに重い風呂敷包みが残されている。
不審がって開けてみると、中には50両もの大金が入っていた。

588 名前:本当にあった怖い名無し :2008/10/17(金) 01:06:02
亭主は、
「これは大変だ、返さないと!爺さんは明日も来るだろうから、それまで大事にとっておけ。」
ところがそれを聞いたおかみさんは
「お前さんなんてバカなことを言うんだい!
 50両だよ!これだけあればこんな小店はたたんで、
 四間間口の大店で番頭に小僧を使って左手団扇で商売できるじゃないか。
 一生こんな小店で我慢できるのかい?」

「ネコババしよってぇのか?」

そこへ最前の爺さんが慌てふためいて駆け込んできた。
ここに風呂敷包みが置いてなかったか。あれの中身はわしの娘を吉原に売った金だ。
この歳で身体は弱り、ろくに行商もできやしない。
それを見かねた娘が、せめて四間間口の大店で番頭に小僧を使って左手団扇、
おとっつぁまに楽をさせようとわが身を売った金だ。あれが無いことには・・・

しかし居酒屋の夫婦、おかみさんは言うまでも無く、亭主までも知らぬ存ぜぬの一点張り。
酷いもので泣いてすがる爺様をつっかい棒で打ち据え、外へ追い出してしまった。
哀れなのは爺様。
ああ娘よ、親不孝な子供とは世間によくある話だが、子供不幸な親とはまさにわしのこと。
せめていい客にめぐり会ってくれ。いい旦那に身請けされてくれ。
それにしても憎いのは酒屋の夫婦・・・

世をはかなんだ爺様は、永代橋から隅田川に身投げしてしまった。




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589 名前:本当にあった怖い名無し :2008/10/17(金) 01:06:35
数年後。
爺様からネコババした金で大きな店を手に入れた居酒屋の夫婦は大当たり。
それこそ商売は奉公人にまかせ、今日は芝居見物、明日は寺廻りで左手団扇。
やがておかみさんが妊娠。やれうれしや、跡継ぎまでさずかるとは。
ところが十月十日で月満ちて生まれ出たのは皺くちゃの女の子。
生まれたばかりで白髪頭、鼻がツンと高くて乱食い歯。そう、例の爺様に瓜二つ・・・
おかみさんは赤ん坊をひと目見るなり、狂い死にしてしまった。

一人残された亭主は、せめてこの子を大事に育て上げよう。
そうすれば爺様も成仏できるだろう、と思いなおす。
お乳が無いので乳母を雇うことにするが、何人雇っても一晩でやめてしまう。
理由を聞いても
「あたしの口からはいえません。旦那に夜起きることを、直に見ていただきたく存じます。」

590 名前:本当にあった怖い名無し :2008/10/17(金) 01:07:14
旦那はいぶかりながらも、赤ん坊と一晩ともに過ごすことにした。
やがて草木も眠る丑三つ時。蒲団の中で静かに眠っていた赤ん坊がむっくりと起き上がる。
そして紅葉のような手で行灯ににじり寄ると、
油さしを大人のように持ち上げて茶碗に油をトクトク、美味そうにグビグビ。
恐怖で声も出ない亭主に茶碗を突き出し

「もう半分」
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